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東京高等裁判所 平成5年(ネ)1767号 判決

控訴人

住宅金融公庫

右代表者理事

岩本章雄

右訴訟代理人弁護士

福嶋弘榮

増田亨

被控訴人

株式会社ユーコー

右代表者代表取締役

瀬戸井実

右訴訟代理人弁護士

松原実

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  原判決別紙登記目録三記載の抵当権代位の登記の記載事項のうち、競売代価の額を一三五八万二三九〇円と訂正する。

三  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  控訴費用は、第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。

二被控訴人

主文一、三項と同旨

第二事案の概要

原判決事実摘示のとおりである。

第三当裁判所の判断

一共有不動産について抵当権が設定された後、共有持分の一部についてのみ後順位抵当権が設定され、その持分のみが競売されて先順位抵当権者の債権全額について弁済されたときは、後順位抵当権者は、共有不動産全部が競売された場合に先順位抵当権者が他の持分につき配当を受けるべき金額に満つるまで、他の持分の上に存続する抵当権に代位してこれを行使することができるものと解するのが相当である。

その理由は、次に付加するほか、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

いわゆる共同抵当における異時配当の規定(民法三九二条二項後段)は、共同抵当を構成する各不動産がいずれも債権全額の負担を負うという共同抵当制度の根幹を維持しながら(同条二項前段参照)、その制度を貫徹した場合に所有者や後順位抵当権者に生じる不公平を回避し、かつ、不動産の担保価値が不必要に固定する事態を回避するために設けられた規定である。不動産の共有持分は、それ自体独立して担保の対象とすることが認められている権利であり、その意味では不動産全部を対象とする所有権と異なるところはないから、不動産の共有持分についても、上記の共同抵当の制度を貫徹する場合に生じる不公平や担保価値の固定等の弊害を回避する必要があることは否定できない。したがって、もし不動産の共有持分について、上記の法律の規定の適用等を否定するならば、一部の共有持分のみが競売されるときは、上記の不公平を回避し担保価値の固定を避けるため、その不動産全部について抵当権を有する者であっても、被担保債権の一部についてのみ配当を受けられるにすぎないとするなど、共同抵当の制度の特質をまた否定せざるを得ないのであり、そのような結果は好ましいことではない。

控訴人は、本件の場合のように後順位抵当権者自ら競売を申し立てた場合は、代位を否定するべきであるというが、異時配当の場合の代位は、競売の申立をした者の如何にかかわらずに認めるのでなければ、制度の趣旨を実現することができないものであるから、そのように解することはできない。また、控訴人は、異時配当の場合の代位は、複雑な権利関係を生じるので、その類推適用を制限するべきであるというが、複雑な権利関係が生じることは共同抵当である以上やむ得ないことであり、その対象が不動産の全部であるか、共有持分であるかにより変わりはないのであるから、この点に関する控訴人の主張も採用できない。

二以上のとおりであって、原判決別紙物件目録記載の不動産についての原判決別紙登記目録一記載の抵当権設定登記につき、同目録三記載の抵当権代位の登記手続を命じた原判決は相当で、本件訴訟は理由がないから、これを棄却すべきである。

なお、原判決別紙登記目録三記載の抵当権代位の登記の記載事項のうち、競売代価の額は、一三五八万二三九〇円の誤りであるから、これを訂正する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 淺生重機 裁判官 杉山正士)

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